first kiss すれ違いざまに、アイツが喉の奥で笑った。 その耳障りな音は今でも俺の頭から離れない。 吸い込んだ息を吐き出して、軽く頭を振ってみた。 それぐらいのことでたった今目の前で起きた出来事を記憶の隅に追いやることなど出来ないのは十分に承知していたが…『敦賀蓮』を演じる自分にはどうしてもやらなければならないことだ。 強引に意識を切り替える。 そうして顔を上げた俺の目に映ったのはこの世の終わりを経験したかのような彼女の横顔だった。 不破に向かっていた殺意めいた気持ちが一瞬にして引いていく。 そして…キョーコがぽろぽろと涙を零すその姿に苛立ちを覚えた。 「…ファーストキス…ねぇ?」 半分は俺への当てつけ。 もう半分はもちろん君の意識を自分に向ける為の策略なのは間違いない。 「わからないなぁ…それってそんなに大切?」 どうして君はそんなに単純なの。 そんな顔をすることがアイツの思うツボだと何故気付かない? …たったキスひとつで。 「まるでこの世の終わりみたいに泣ける程…?」 俺の醒めた言葉にびっくりしたのか、キョーコはぴたりと涙を止めてこちらを見上げた。 「なんかそれってちょっとバカバカしいよね?」 返事に詰まったキョーコが再び固まる。 その場に居た Dark Moon の関係者全員も事の成り行きを見守るように動きを止めた。 「そうは思わない?最上さん」 俺が忘れさせてあげよう。 ……君の記憶から、完全に。 連はキョーコに向かって冷ややかに微笑んだ。 アイツにはもちろん腹が立った。 でもそれ以上に俺は君に腹が立つんだ。 アイツのことで頭をいっぱいにするのは許さない。 そして…… これ以上アイツに傷つけられることを、俺は絶対に許さない。 …不破尚… 「この借りはきちんとお返しするよ。…必ず、ね」 蓮が静かに呟いた言葉を聞き咎めた者は誰一人としていなかった。 本誌を読んで。 こんな解釈は駄目ですかね? まぁ、次の号が出るまでの自己満足なSSSです(笑) 2009.09.23 まゆ |