欲情




「君はもう少し自覚した方がいいよ。男から…女として自分がどんな風に見られているかを」

蓮はキョーコの肩を掴み、そのまま床へと押し倒した。

「触れてみたいんだ…その肌に」

突然の、硬いフローリングの感触にぎゅっと瞳を閉じた子羊。
首から肩にかけてのラインにつぅっと指を滑らせると面白いほどに身体がはねた。

「や、やめてください!敦賀さんッ」
「駄目だ。もう…これ以上は無いというほど我慢したからね」

そう言ってにっこり笑えば身体の下の少女は顔を引きつらせて固まった。と思いきや、次の瞬間には気がふれたように暴れだす。
でもそれは…蓮にとってとても些細な抵抗だった。

「怯えないで」

無理な注文だろうと頭では判っている。
しかし、言わずにはいられなかった。

「嫌…放し、て…お願いだから放してください!」
「大丈夫…酷いことなんてしないよ」

振り乱れる前髪に、色づく頬に…そっと唇を落とせばキョーコは大きな瞳からぽろぽろと涙を零した。
それでも何とか隙間を作ろうと俺の身体を押す細い両腕が一層哀れで…

「俺のモノである、所有の証を刻み付けたいだけ」

香水などつけていないはずのその身体が、甘く香る。
蓮はキョーコの両手首を一つに束ねて頭の上で押さえつけ…無防備に晒された白い喉へと顔を埋めた。










「助かったと思うべきなんだろうね。夢で」
「…え?」
「君に嫌われずに済んだ」

とはいえ、夢は欲望の表れとはよく言ったもんだ。
今まで幾度となく彼女に迫る夢は見てきたが…昨夜はとうとう一線を越えてしまった。
こんなことでは現実でも手を出しかねないじゃないか。

「あのー…敦賀さん?」

でもそれは俺のせいだけじゃないからね。
それというのも全ては最上さんが可愛過ぎるから……
ほら、今だって。
そんな潤んだ瞳で見上げてくるのは反則だろう?

『触れてみたいんだ…その肌に』

そんなコト、口が裂けても言えやしないのに。
頬に指を滑らせるようにしてキョーコの髪をかき上げれば、ほっそりとした白い首が露になる。

『俺のモノである、所有の証を刻み付けたいだけ』

今はその時ではないけれど、いつかきっと…近い将来…

「敦賀さん…敦賀さんってば!」

会話にしては大きすぎる声で名を呼ばれ、慌てて視線を合わせれば最上さんがものすごい表情でこっちを見てた。
そして自分の右手が何処にあるのか気づく。
髪の毛を絡めた指はキョーコの後頭部を支えており、恋人の仕草に例えるなら…キスをする、五秒前。
ヤバイと思いつつも蓮は彼女から急に離れるという真似はしなかった。
そんなことをすれば余計に怪しい。

「何かな?」
「手!…を、のけていただけないでしょうか」
「あ、うん。ごめんね?ここだけ髪がはねてるの、気になって」

深呼吸一つの間に不自然じゃない台詞を用意する。
冷静になりさえすればこんな言い訳、俺にとっては至極簡単なこと。

「す、すみません!芸能人としてあるまじき失態…すぐに直してきますッ」

触れていた髪が指の隙間からするりとほどけて、次の瞬間には後姿に変わる。
キョーコが自分の言葉を疑いもせず一目散に楽屋へ戻っていくのを見つめながら蓮は大きな溜息をついた。

「ホント、気が抜けない」
「そうだね。今のはかなり危なかった」
「…社さん…いつからそこに?」

背後から掛けられた声に辛うじて返事を返す。
振り返ればそこには予想通り満面の笑みを浮かべたマネージャーが立っていた。

「もちろん、最初から全部見てたよ?」
「そう…ですか」
「『敦賀蓮』の崩壊まであと少しだね」

俺にだってこの変化が止められるなんて思っていない。
でも…願わくばもう暫くこのままで……
今の自分に自信が持てるまで……

「待っていてくれるかな…?」

蓮はキョーコが去った扉を見つめ、祈るような気持ちで呟いた。










ヘタレ入っている蓮様が萌えです…
初スキビですがこんな感じでやっていきたいと(爆)


2008.01.01
まゆ