束縛




自信があったんだ。
この感情が恋だと気づいた時でさえ隠し通す自信が、俺にはあった。
それなのに今の自分ときたらどうしてこうも……

目の前に立ち尽くす、俯いたままのキョーコの小さな頭を見下ろしながら蓮は人知れず溜息を吐いた。










「どうしたの?最上さん」

撮影現場の片隅でうろうろと落ち着き無く歩き回っているキョーコに蓮が声を掛ける。
Dark Moon の撮影も終盤に差し掛かり…もうすぐ同じ現場で顔を合わせるということも無くなるだろう。
そんな想いが何処にいても彼女を目で追わせるのだ。

「い…いえ、別に。なんでもないです!これはその…私事でして…」
「何?その俺には関係無いです的な言い方。酷いなぁ、最上さん。仮にも俺は君の先輩なのに」

『先輩』
こう脅せば彼女は大抵のことは口を割る。
そのことにごく最近気が付いた。

「本当に何でもないですから!敦賀さんの手を煩わせたりするようなことでは決して…」
「君の何でもないという言葉ほど信用できないものは無いと今までに散々学習したからね。正直に話したほうがいいよ」
「うっ…」
「俺では力になれないことなのかな?」

有無を言わせない笑顔で詰め寄ればキョーコは呆気なく壁に背をつけた。

「えぇっと…ですね、その…」
「うん?」

言いよどむ彼女はすでに泣きそうな顔だ。
それでも手加減などしてやれない。

『お願いだから嘘だけは吐かないで…』
『お願いだから隠し事だけはしないで欲しい』

一見優しい言葉で君を雁字搦めにする。
怒っている訳でも、ましてや謝ってもらいたい訳でもない。
ただ…
彼女のことはどんな些細なことでも知っておきたいだけ。
この恋に、余裕なんて一切有りはしないから。

「最上さん?」

蓮は極上の笑顔でキョーコに言葉の続きを促した。








2009.09.23
まゆ