シュミレーション  sin ver.




『別に…もう、どうでもいいよ』

ホントに?
本当にそう思ってんのか、オレ。





慎は流れる景色をただぼぅっと眺めていた。
各駅停車の列車では東京に着くのは一体いつになることやら。
再び寝ようと瞳を閉じてはみたが上手くいかない。
山口のせいですっかり眠気は覚めてしまったようだ。
さっきひょっこり起き上がってオレに意味深なことを告げた藤山は後ろの座席ですでに寝息を立てている。

…いい気なもんだ。
熊注意って、どんなセンスだよ…そのTシャツ。
熊はお前だつーの。

八つ当たりを多大に含んだ突っ込みを入れる。
山口はというと通路を挟んだ斜め前の席で一人眉間にシワを寄せていた。

アイツ…
マジで何も考えてなかったみてぇだな。

好きな男を追いかけて北海道まで行ったというのに信じられない。
普通なら考えるハズだ。
例えばデートだったり、二人での生活だったり…あんなコトや、こんなコト。色々。
慎は俯いて溜息を漏らした。

京さんの読みどおり、山口はバージンだ。
…間違いねぇよ。












肩に置かれた手が、強引なまでの力強さで久美子を引き寄せた。

「一緒に小樽へ行かないか?」

篠原の胸に押し付けられた耳から微かな振動と共にくぐもった声が聞こえる。
突然のことに篠原の言葉を理解出来ずにいる久美子が慌てて顔を上げた。

「え?…あの……?」

茹蛸のように赤く頬を染め、声にならない声を発している。
そんな久美子の様子に、篠原は少し困ったように微笑んだ。

「結婚してください」

色恋事に疎い久美子にわかるよう、ストレートに告げる。
篠原が背中に回した両腕に力を入れると二人はこれ以上無いというぐらいに密着した。

「…私でいいんですか?」
「久美子ちゃんがいいんだ。組の人と離れるのは寂しいだろうけど…オレに付いて来て欲しい」

家族のことを言われて一瞬ひるんだ久美子だが、心は決まったようだ。
いつもの強い眼差しが篠原へと向けられる。

「はい。…でも、あいつ等が卒業するまで待ってくれませんか」
「沢田君達だろ?もちろんオレはそれで構わないよ。久美子ちゃんが彼らを途中で放り出したり出来ないことぐらいわかってるから」
「篠原先生…」





見詰め合う二人の顔が重なり合うその寸前に、慎は軽く頭を振る。

…何考えてんだろ。

「あいつ等が卒業するまで待ってくれませんか、か」

責任感の強い山口のことだ。
それくらい言いかねないと思う。
現実的過ぎる妄想に不安と苛立ちを掻き立てられて、慎は軽く舌打ちした。

薄暗くなった車窓に自分の横顔が映る。
東京に着くころはとっぷり日も暮れているだろう。
うずく胸の痛みを誤魔化すように、慎は深く息を吸い込んだ。

やっぱ、どうでもいいわけねぇし。
…どうすっかな?

所詮、山口を諦めるだなんて無理な話だと自覚する。
だって。
自分が初めて本気で惚れた女なのだから。

たとえカッコ悪くても、さ。
最後まで足掻いてみるのもいいかもしんねぇ…










YOUのNO.13を読まないと何のことかわからないと思われます。
スミマセン。
あれ読んじゃって…どうしても書きたくてね(笑)
どうでもいいわけ無いじゃんか、慎…キバれよ!って感じです。
ヤンクミバージョンも書きたいと目論んでますので。へへ。
…。
いいの。ココはアタシの自己満サイトだから。


2005.06.19
まゆ