リアル




予想以上の白い肌に、思わず息を呑む。
ぴったりと密着した身体の下。
オンナがもそもそと身じろぎした。
少しでも隙間を作ろうとするその行動はあまりにも無意味で、逆にオレの中に溜まりつつある熱を煽るだけだ。

「…放さねぇから」

耳元で囁けば、キッと睨み返してくる担任教師。
潤んだ瞳で睨まれても、そんなモン怖くもなんともない。
ましてやこの状況を回避出来るなんて思わないでくれ。

「沢田ッ…お前、自分が何してるのかわかってんのか?」

ほら、声だって震えてるし。
ホント…らしくねぇよな。
細い手首を押さえ込んでいた右手を離し、慎は久美子の頬を撫でた。

「お前こそわかってんのかよ…」

オレがしてることの意味を、ちゃんとわかってる?
好きだって言ったコト、理解出来てんの?

「…こんなの、間違ってるぞ」

そんな小さな声なんて聞こえないね。
フイっと背けられた顔を半ば無理やりこちらに向けさせた慎は、その唇に、そっと自分のものを重ねた。
躊躇いがちな、小鳥が啄ばむようなキス。
…震えてんのはオレの方か?

「沢田ッ!」

黒い大きな瞳から零れた雫を唇で拭う。
今からもっと泣かせることになるんだろうなと、頭のどこかで客観的に思った。
でも。

「やめねぇよ。てか、止めらんねぇし…」

再びオレの身体を押しのけ始めた華奢な腕をひとまとめに捕まえて頭の上で固定する。
邪魔するものはもう何もない。
慎は吸い寄せられるように久美子の首筋へと顔を埋めた。












「痛ッ…さわ、だ……痛いッッ!」

時間をかけて慣らしたハズなのに、それでも久美子は苦痛を訴える。
硬く瞑ったままの瞳からまた新たな雫が零れ落ちた。

「や…だぁッ……」

正直ここまで痛がられると行為そのものを楽しむ余裕なんて一切無い。
積もりに積もる罪悪感が慎を苛む。

「山口、わかった。…もう、しないから…」

溜息混じりに囁き、慎は押し進めていた腰の動きを止めた。
自分を見つめる愛しい瞳に、安心させるためのキスを一つ落とす。
そして、頼むから泣くなよと抱きしめたやわらかい身体。

が、…何故か一瞬のうちに掻き消えた。

代わりに視界に広がる見慣れたジャージの色。
そして、クリアな声。

「授業中に一体どんな夢見てんだよ、沢田」

どんなって……
慎は目の前に立つ、担任教師の顔をゆるゆると見上げた。
そんなことよりオレの方が聞きてぇよ。
なんでお前…服、着てんの?

まだ虚ろな目つきの慎の頭を久美子は丸めた教科書で思い切り叩いた。

「痛ぇッ…」
「寝言!」
「はぁ?」
「さっき寝言で私の名前を呼んだ!!」
「…マジかよ…」
「もうしないって、沢田…私に何をした?!」

教室中から沸き起こる冷やかしと笑いの渦。
その中でクマと南、そして内田と野田の4人だけが硬直していたことを気づいた者は多分いない。


『お嬢はな、まだ男を知らねぇような気がするんだ』


「京さんがあんなコト言うから…」

午後イチのぬるい温度の教室は、慎にとって恰好のお昼寝場所だ。
今日もいつもの如くすっかり寝入ってしまっていたらしい。
立ち憚る壁のような久美子の白いジャージを避けるようにそっぽを向いた慎の口から愚痴らしき言葉が漏れた。

「何?!京さんがまたお前に何か吹き込んだのか?」
「あ…いや、なんでもないし」
「ウソつけ!大体お前はいつだってすぐにはぐらかすから信用出来ねぇんだよッッ!」

胸座を掴んで力任せに揺する。
慎の赤い髪がゆらゆらと動いた。

「ヤンクミ、授業中だぞ!」
「お前…仕事しろって」

助け舟であろう、クマと南には似合わない野次に久美子がはっと顔を上げた。
クラス中の視線が自分に集まっている。

「てか、京さんって誰よ?」

ウッチーの素朴な疑問は、もちろん皆が思ったコトで。
興味深々の視線がイタイ。
一瞬にして静まり返った教室に、負け犬のような久美子の捨て台詞が空しく響いた。

「うッ。後でじっくり拷問にかけてやるからな!覚えてろ、沢田!!」






黒板へ向かい離れていく久美子の背中を確認してから野田がにやけた顔を寄せてきた。

「他のオンナならスゲェ楽勝なのになぁ、慎。拷問だってよ、どうする?」
「うっせぇ…」

夢の内容がすっかりバレているようで居心地が悪い。
慎は小さい溜息と共に野田から視線を逸らした。



別の誰かが代わりになるなんて思わない。
欲しいのはただ一人。
夢の中でさえも征服できない、目の前のこのオンナだけだから…

再びずるずると机にうつ伏しながら、慎が少し拗ねたように呟く。



「…今度は泣いたって途中で止めねぇ」













『お嬢はな、まだ男を知らねぇような気がするんだ』 って、京さん…
アンタ、慎ちゃんを煽りすぎたよ(爆)


2005.06.02
まゆ