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ヤンクミの奴だって、全く脈無しってわけじゃなさそーだから。
頑張ってみるのもイイんじゃねぇの?

な?慎…










「お前ら!!沢田、見なかったか?」

勢いよく教室の扉が開き、いつもと変わらないジャージ姿で山口久美子が顔を覗かせる。
相変わらず無駄に元気な奴だ。

「はぁ?慎ちゃんならまだ来てねぇよ」
「何だと!?あの野郎…肝心なときに居やしねぇ。ていうか、もうすぐ授業が始まるぞ?」

朝のHRにも姿を見ることが出来なかった沢田を思い出して、久美子は拳を握り締めた。
不穏な空気が漂い始める中、ウッチーが能天気に問いかける。

「ヤンクミ〜、慎に何か用?」
「え?…あぁ…ちょっと、な」
「何だよ、ソレ」

…確かに。
ちょっとってナンデスカ?

野田は愛用のキャップのつばをクイっと下げて声無く笑った。
実は少し前から気になってはいたんだ。
ヤンクミの行動は普通じゃないだろ?

「とにかく、沢田が来たらアタシに教えてよ」

ほら、こんな風に。
しょっちゅう慎を探してる。
慎はクラス委員でもアンタの舎弟でもねーじゃん。
何でだよ?

「心配しなくても3限には来るって」

数学だからな…とは、あえて言わないでおく。
去りかけていた背中が振り返った。

「野田…絶対か?」
「絶対」

慎は他の授業サボってもさ、数学サボったことないっしょ?
気付いてやれよ、それぐらい。

「よし!しょうがないからそれまでは待ってやる」

オレの即答に満足したらしく、ヤンクミは割りと機嫌良く教室を出て行った。















数学の授業の終わった直後、ヤンクミに引きずられるようにして連れて行かれた慎は次の授業が始まるギリギリの時間に戻ってきた。
オレは早速机にうつ伏して寝る体勢に入る慎に近づき、顔を覗き込む。

「ヤンクミの用、何だった?」
「…大したコトじゃねぇし」

いつもの答え。
多分それは本当のことなんだろうケド。
オレとしてはもっとこう…色っぽい話を聞きたいワケよ。

「ふぅん?慎の友達のオレとしては、ヤンクミと二人きりで物置で何ヤってたのか心配っしょ」
「物置じゃねーよ。資料室だろ、アソコは。…てか、なんで知ってんだよ?」

引っ掛けに決まってんじゃん。
なんでヤンクミのコトになると余裕が無くなるかねぇ、慎は。

「告らないの?」

野田から、先ほどまでのからかう雰囲気が消える。
慎は一瞬息を詰まらせてから…細く長い息を吐いた。

「…無理。相手にされてないし」
「そうは思わないケドね?」

オレの返答に慎は僅かに驚きの表情を見せた。
それを確認してニヤリと笑う。

気が付けばいつの間にか先公が来ていた。
昼メシ前の4限はハゲたジジイの古文。
慎がもの問いた気にこちらを見ていたけれど…授業中も休み時間と変わらない教室の中を、オレはゆっくりと自分の席へと向かった。















「だから今度は何の用だっつうの」

午後の授業。
5限と6限の間の休み時間。
そんな僅かな時間にさえもヤンクミは普通に慎を呼びにくる。
教室の片隅で眠っている慎を揺すり起こす様子を遠めで見ながらウッチーとクマが顔を見合わせた。

「オイ。ヤンクミの奴…最近やたらと慎を探してねぇか?」
「…だよな。オレも今そう思った」

お前ら…今頃気付くのは遅いって。

俯いて軽くふきだすオレを、南がヘンな顔で見てる。
更に視界の隅では、なかなか起きない慎にヤンクミがげんこつを振り上げていた。

「野田、なんか知ってんの?」
「…別に」
「何だ、ソレ?慎の真似かよ?」
「違げぇよ、バーカ」



とにかく。
本日、7回目の『沢田』コール。
二桁になるのもそう遠い日ではないとオレは思ってる。










原作のごくせん。のつもり。
野田の性格が微妙だけど・・・突っ込みはナシの方向で。


2005.04.24
まゆ